亡くなったあとには「相続手続き」と「死後事務」という別々の流れがあります。財産の承継は遺言書、葬儀・届出・片づけは死後事務委任契約が担います。遺言書に葬儀の希望を書いても法的な効力はなく、死後事務委任に相続の内容を書いても拘束力はありません。
「死後事務」と「相続手続き」は別物
人が亡くなると、大きく2つの流れが同時に始まります。ひとつは相続手続き——財産を調べ、法定相続人を確かめ、預貯金や不動産の名義を変えていく、財産の承継に関わる流れです。もうひとつが死後事務——葬儀や供養の手配、住まいの片づけ、ライフラインの解約、死亡届の提出や費用の精算といった、暮らしの後始末に関わる流れです。この2つは混同されやすいのですが、担う仕組みが異なります。
遺言書でできること(財産の承継)
遺言書は、自分の財産を「誰に、どれだけ承継させるか」という方針を法的に定める文書です。相続の場面で効力を発揮し、遺された方々が分け方をめぐって迷ったり争ったりすることを防ぎます。ただし、遺言書が扱えるのはあくまで財産の承継が中心です。葬儀の希望などを書き加えても、それ自体に法的な拘束力は生じません。
死後事務委任契約でできること(葬儀・届出など)
死後事務委任契約は、葬儀や供養の手配、部屋の片づけ、各種契約の解約、行政への届出、費用の精算といった、逝去後に発生する事務の実行を、信頼できる相手に託す契約です。これは財産を「分ける」話ではなく、必要な手続きを「行う」話です。遺言書ではカバーしきれない、暮らしの後始末をここで手当てします。
2つの役割を比べると
| 項目 | 遺言書 | 死後事務委任契約 |
|---|---|---|
| おもな役割 | 財産を誰に承継させるか | 逝去後の事務を誰に任せるか |
| 扱う内容 | 財産の承継・分け方 | 葬儀・供養、届出、解約、片づけ、精算 |
| 効力の及ぶ範囲 | 財産の承継に関することは有効 | 依頼した死後事務の実行は有効 |
| 書いても効かないこと | 葬儀など死後事務の指定は効力なし | 相続の分け方の指定は拘束力なし |
両方をそろえて連携させる
役割が違うということは、どちらか一方だけでは備えに穴が空くということです。財産の承継は遺言書、逝去後の手続きは死後事務委任契約——この2つをそろえて、はじめて切れ目のない備えになります。実務では、遺言の内容を実行する「遺言執行者」と、死後事務を担う「受任者」がうまく連携できると、手続きの遅れや行き違いを防げます。作成の段階から、両者の役割を意識して整えておくことをおすすめします。